もう10年近く前にベトナム・ハノイに行ったことがあるのですが、町並みがことごとく黄色いこと、中心部にパリのようなオペラ座があったことに驚きました。
フランスの植民地時代に、フランス人が様々な建築をハノイに建築したのですが、このオペラ座もその一環で建てられたのです。
イタリア産の大理石を使った豪華なロビー。白と黄色の明るい建物は、公共建築監査官のアルレイ設計で1901年着工1911年に完成。
そう、今年で築100年の建物なんですね。
では、ここで問題。
オペラ座に限らず、なぜハノイの欧風建築は黄色い建物ばかりなのでしょうか?
当時も疑問に思っていたのですが、本書「建築のハノイ ベトナムに誕生したパリ」を読んで納得しました。
ちょっと長くなりますが、引用します。
P.15
これらの建築物は、形はフランス的だが、フランス人にとって南方を意味する黄系色で塗られており、いわば「色の南方趣味」ともいえるものである。フランス人にとって、黄色い建物は南部にあるものだった。南仏にいけば、たしかに黄色い壁の建築が多い。これは、プロヴァンス地方で産出するオークルなどの石材に由来するが、建築材料として盛んに使用され、インドシナへも輸出されていた。オークルの実際の使用はインドシナではごく限られていたと思われるが、壁を黄色に塗ることで、建築家たちは南方の地に立つ建築であることを表現した、ということのようだ。
つまり、黄色に塗られた街は、フランス人の「南方」のイメージの表現だったのですね。
この黄色、街を歩いていると、ほとんどが黄色でびっくりします。
が、妙に明るい感じがして、本当に「南国気分」が出てくるから不思議です。
本書に取り上げられているのは、フランスの植民地時代の欧風の建物、ベトナムの様式や19世紀・20世紀の建築を取り込みながら発展した、まさに博物館のような建物群です。
決してフランス様式の押し付けではなく、その特徴を受け継ぎつつ、フランス植民地様式(たとえば、ファサードを大きく取り暑さを防ぐ)をベースにしながら、ベトナムやアールデコなどの最新様式を取り込んでいく。
まさに、ベトナムの歴史を表した建物群です。
写真も、すばらしく美しい。見ているうちに、あの暑くて湿度の高いハノイの空気が肌に感じられ、バイクの喧噪が聞こえてきそう。そして、石造りの建物に、ふっと入って感じる冷気。そうそう、ハノイってこんな感じだった!
そんな空気感も、感じられます。
おそらく、ベトナムの経済発展から考えると、どこまでこうした建物が残っていくかは分かりません。おそらく、日本のように、歴史的な建物も潰れていくかもしれません。建築好きなら、今のうちにハノイに行って見てみた方がいいとおもいます。
(特に排ガスで石造りの建物が痛まないうちに)
その建築ツアーの下調べに、本書はうってつけの本でしょう。
歴史博物館やベトナム国家大学など、越仏様式のような「クレオール」的な建築も、ベトナムならではの趣があります。
実は、ハノイといいつつハノイからフエ、ダラット、ホーチミンまで触れています。ハノイ以外には白黒写真が多いところ、モダニズム建築の写真枚数が少ないことが難点ですけど。
夏休みにベトナムに行かれる方で建築好きな方には、必携だと思います。
これは本当に面白い!
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