環境問題が取りざたされて、かなり長い時間が経ちますが、いまだに根本的な解決はみません。そりゃ、水質や大気汚染の度合は改善してきましたけど、いまだに問題自体は無くなりませんし、全世界的に見ればCO2の削減もままならない・・・・
これで果たして環境問題を解決できるのか、日本人、いや人類は生き残ることができるのかと考えると、どうも暗澹たる未来を予想しがちです。
ですが、ちょっと発想を転換すれば、根本的に環境問題を解決し、なおかつ従来は日本の弱みと思われてきたものでさえ「強み」へと変えることができるのではないだろうか、というのが、本書「環境戦略のすすめ エコシステムとしての日本」(海上知明著)です。
著者の海上さんは、東京海洋大学非常勤講師、国立民族学博物館共同研究員、戦略研究学会古戦史研究部会代表ということで、防衛についても言及されていることが、従来の環境問題関連書籍とも一線を画していると思います。
つまり、環境問題を、いかに無力化し強みに転換させるかという視点から、日本の社会や安全保障を変えていくか、という点についても書かれているわけです。具体的にはシステム全体をトップダウンで大改革するのではなく、各家庭がエネルギーや食料で自立性を高め、ひいてはエネルギーや食料問題を解決していこうという思想です。
やがては日本自体がひとつの「エコシステム」として自立していき、エネルギーや食料を外国から買うために働いていた労働からも解放され、究極的にはエネルギーを輸出することまで視野に入れていき、よりよい社会を築いていこう、ということでした。
具体的には太陽・風力発電の活用、ビル型の屋内食料栽培工場などを積極的に進めることによって、いまの集中(発電所やゴミ処理工場)によって問題になっているものを、分散化させた施設によって各地域や家庭で解決し、無力化させようということです。
インドや中国の経済発展を考えますと、エネルギーや食料の確保は今世紀の重要な課題になりつつあります。であるからこそ、日本が現在の社会構造を転換させ、いちはやく世界的な問題から脱却することこそが、次世代に置いて栄えるための重要なポイントではないでしょうか。
また、それを日本がいち早く達成すれば、発展途上国が発展した際に懸念される大規模な汚染の発生を防止し、エコと経済を両立させるという素晴らしい未来へと貢献できる、ということも本書で提案されております。
この国を、次にはどんな国に転換させていくか、という点では、この本は真の「構造改革」への提言であると思います。大きなヴィジョンがあります。「美しい国」などはお呼びではないですね。この構想力は素晴らしいと思いました。
エネルギー、防衛、食糧から地方分権や産業論までつながっていく、必読の書ではないかと思います。
ちなみに、本書の刊行前に、私も「紺洲堂通信」の中で「日本は資源大国だ」という趣旨のコラムを書いておりましたが・・・・海上さんと全く同意見です。
海上 知明著
NTT出版 (2006.8)
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