安倍内閣の伊吹文科相が、英語の必修化について否定的な発言をしたそうです
(関連記事) つまり、日本語が出来ないのに外国語を習わせるのは論外だ、小学校では外国語に興味を持たせる程度にとどめ、小学校では国語の基礎をきっちり作り、中学校から習わせる、ということですね。
そこで、本日の読書は市川力著「英語を子どもに教えるな」です。そのままのタイトルの本で済みません。ですが、この本は示唆に富んだ内容です。著者の市川さんはアメリカで、現地に在住する日本人子女(日本でいうところの帰国子女)のための学習塾を運営されていました。
在米13年、1,000人以上の帰国生を指導してきた経験から、子どもに英語を教えてマスターさせるためには、どれぐらいの苦労が必要か、ということが書かれてあります。つまり、たとえ英語圏からの帰国子女であっても、英語と日本語の両方で高度なことをするためには、恐ろしいほどのリソース(時間、費用、親と本人の努力)が必要であることがわかります。
ただペラペラと喋っただけでも話の内容が伴わなかったり、あるいは英語どころか日本語も怪しくなって、落ちこぼれてしまったりと、一般に思われている以上の困難がついて回ります。特に、早ければ早いほどというわけではなく、母語をきっちりとマスターする小学校4年生以上のほうが、英語の上達が早い、というケーススタディーも紹介されておりました。しかもこれは、国内よりも恵まれた環境にいる子どもたちなのですよ。
また、バイリンガルで両言語とも高度なレベルに達するのは、なかなか難しいことで、下手すると「虻蜂取らず」になってしまいます。その為に著者は、
「動機づけ」
「適切な環境」
「適切な方法」
が必要だといいます。これをキープするのは、本人だけではなく、両親や先生、友達などの環境にも左右されることですので、簡単に国際人が養成できると思ったら、大間違いなわけです。
「英語を使って読み、書き、聞き、話せるようになるためには、単に子どもの時から始めれば済むわけではなく、英語自体の訓練以上に、思考力を高めることと伝えたい内容を持つことが大切であることを、私はアメリカで英語を身につけた日本人駐在員の子供たちに教えられた」という著者の言葉は、含蓄がありますね。
つまり、論理的な思考力、相手を説得するための構成力、証拠を揃えるリサーチ力、多数の前で発表するプレゼンテーション力がなければ、いくら英語を鍛えたってダメ、そもそも人間性も養わないと国際人としては失格だし、発想力がないと聞いてもらえるだけのものもない。
なんのことはない、英語力といっても教育の一環なのですから、「英語力」として独立しているものではなく、複雑に他教科とも絡み合った、総合的な話になってくるわけです。
と考えますと、一見妥当に思える主張である、【
主張】小学生の英語 国語こそ知的活動の基礎のように、学習する漢字を制限したことが国語教育の崩壊と読解力の低下の原因であるとする主張は、ちょっと説得力がありませんね。では、漢字ドリルをやれば、国語力がアップして国際的に通用するようになるのか、という話です。
確かに、国語力の強化は絶対に必要ですし、「英語を子どもに教えるな」でも明らかなとおり、英語力を高めるためにも必要なものです。国語力が重要だという主張には同意します。
ただ、それが漢字の制限が原因であるという主張の裏返しを考えてみて、漢字数を増やし、授業時間を増やして、書き取りテストをすれば国語力が高まるか、とすると、何だか怪しい主張ですね。そもそもそんな程度のことでは議論に必要な論理力などは育たないでしょう(皮肉ですが)。今までとは違ったタイプの能力が求められているのでしょうから、国語教育自体にも、実は大胆な効率化改革が必要なのではないか、と思うのです。
そうそう、海外に駐在する日本人ビジネスマンの方にも、お子さんの教育を考える上で必読だと思います。英語に限らず、他の言語であっても事情は同じ、いやむしろ英語圏以外の国に赴任される方が「日本語・英語・現地語」の3重苦に悩まされる分、悩みは深いと思います。
海外赴任前に、どういう教育方針を立てるか、本書を読んだ上で検討されるのも良いかと思いますよ。
市川 力著
中央公論新社 (2004.2)
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