長期的に好業績を上げ続ける企業には、「形」でない「本質」がある(本書帯より)、ではその本質とは何かを探り、日本の優秀企業に共通する要素を抽出してきたのが、この「日本の優秀企業の研究」です。「不易」と「流行」で分けるなら、時代によって流される数々の経営論ではなく、「不易」の部分にフォーカスしたものでしょう。
優秀企業とされる企業でも、様々な業界にまたがり(中には不況業種も)、様々な社内組織を抱えているわけです。その中でも、では何が他との違いを生んでいるのか、という疑問は当然にあるわけで、ここでは6つの条件が著者によって提示されております。
1.分からないことは分けること
2.自分の頭で考えて考えて考え抜くこと
3.客観的に眺め不合理な点を見つけられること
4.危機をもって企業のチャンスに転化すること
5.身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視すること
6.世のため、人のためという自発性の企業文化を埋め込んでいること
書き出してみると非常に「まとも」で「当たり前」に思えてきますが、その通り。特に「劇薬」的なものはありません。ただ、花王、キヤノン、シマノ、信越化学工業、セブンイレブン、トヨタ自動車、任天堂、本田技研工業、マブチモーター、ヤマト運輸といった優秀な企業を著者が入念に調査して「抽出」してきたものですので、「毎朝○時に起きる」「あいさつをする」といったレベルの具体策はありません。
では、結局何を得られるのか。
やはり、自分を省みる為のツールでしょうか。意外と、自分がその環境にどっぷりと浸かっていると、よく分からないうちに流されることがあります。適宜、読み返してみると自分の状態を確認できると思います。
これを読んだからといって、優秀企業になれると思ったら、また大間違い。あくまでも、優秀になるためのベースを築く為のものです。これらの要素がビジネスの戦略策定などに影響を与えて、初めて威力を発揮するわけですから、万能の処方箋と考えるのではなく「自分で作る薬の原材料の一つ」にするべきでしょう。また、即効性ではないものなので、体質改善の漢方薬的に読んでみることが必要ですね。
書いてあることも精神論から戦略論まで、レベル感が雑多な印象がありますので、これだけを読むのは、また危険であると感じます。つまり、どう自分の戦略に落とし込むか、という部分を抜かして「精神論」の部分だけを取り込んでしまう危険性があるのです。
だからこそ、本書の「2.自分の頭で考えて考えて考え抜くこと」が必要で、読む側も自分の頭で考え、各章の最後に書いてある理論や他のビジネス本や企業本を想起しながら、考えることが必要なのです(これも、当たり前といえば当たり前ですね)。
全体的に、枚数の制限があるため、各事例についての話が短いことは注意が必要ですが、サンプルになった各企業についての本は、本屋のビジネスコーナーに行けばいくらでも見つけられますから、やはり適宜、照らし合わせて読んでみるのが良いと思います。
就職活動中の学生さんから現役のビジネスパーソンまで、幅広く読むことが出来る良書だと思います。
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新原 浩朗著
日本経済新聞社 (2006.6)
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