石田衣良さんの原作である「アキハバラ@Deep」は、2004年11月に単行本で出版されたもので、このほどついに映画化されました。祝・初映画化です。
じつは私、石田さんの本は結構好きなのですが、巷で有名な「池袋ウエストゲートパーク」のドラマは見ていないのです。いつかは見ようと思っているのですが・・・
さて、映画化のタイミングなのですが、「電車男」の成功が後押ししているのではないでしょうか。秋葉原系の話がホットかつ受け入れられる、ということで原作を探してみると、石田さんのアキハバラ@deepがあった、と。きっと企画会議で「原作本がこれだけ売れて、電車男がこれだけ売れて、なおかつオタクが世間にはこれだけいて・・・」ということで決定したような気もしますが・・・・。ドラマ化もされていますし。
粗筋としては、
・吃音があるが天才的にテキストを書ける「ページ」
・潔癖症だがグラフィックデザインに長けた「ボックス」
・原因不明のフリーズ癖があるがデスクトップミュージックの作曲の才能がある「タイコ」
・メイド喫茶で働く傍らキャットファイトの選手もしているネットアイドルの「アキラ」
・天才少年ハッカーの「イズム」
(他に原作に登場するのは、法律知識のある元・引きこもりの「ダルマ」がいます)
の「アキハバラ@Deep」面々が、人生相談サイトを主催する「ユイ」さんによって出会い、互いの欠点を補い合いながらGoogleやYahooに負けない検索エンジン「クルーク」を作り出すものの、IT界の成功者「中込社長」に奪われてしまい、それを奪還すべく奮闘する、というものです。
肝心の
映画版Deepなのですが、きれいにまとまっていますね。なるべく原作からずれないように作っていることがわかります。特に映画版で抽出しているのは、「討ち入り」の要素です。討ち入りものというのは、理不尽な仕打ちをされた主人公側が、最後に悪の親玉のところに殴りこみにいく、というパターンですね。
この映画も同じく、最後のシーンまで、うまく持って行っていると思いました。だからでしょうか。原作ではDeep結成に重要な役割の女性(ユイさん)が軽くなっていますし、あまり出番のなかった原作のメンバーが一人(ダルマ)、出されておりません。
それに、どうも「ページ」というキャラクターの「どもり芝居」の演出がくどかったように思います。せっかくの成宮寛貴さんの芝居なのですが、あまりにキーボードを叩いて説明するシーンが多く、観客はホウホウと聞いているだけで進んでしまうように思いました。
全体的に、キャラクターが観客のそばまできていないような印象がしました。親近感といいますか、観客が自分をキャラクターに投影し、キャラクターの持っている欠点を自分の欠点と二重写しにするようなところまでもっていっていないのは惜しかったです。
つまり、若者が徒手空拳で作ったものを巨悪が横取りし、それを討ち入りで取り返すという話の筋を重視するあまり、キャラクター同士の交流であったり、観客の自己投影が希薄なのですね。「こんなんいるよね!」とか「そうそう、俺もこういう時あるよね」といった事を、あまり感じられなかった。原作に無かったキャラクターの過去の肉付けなど苦心して造形しようとしているのはわかるのですが、それが上手くキャラクターに乗っかっていないのです。難しいなあ・・・。
ただ、佐々木蔵之介さんや寺島しのぶさん、荒川良々さんなど俳優さんの演技は良かったと思いますね。寺島さんと山田優さんの格闘シーン、参議院議員になられた神取忍さんがヤラレ役として出演していたりするのですが、みなさんの格闘シーンはかなり見ものです。動きも鮮やかだし、やはり美しい。寺島さんの役どころは映画オリジナルですが、山田さんの演じる「アキラ」役とうまくからませ、かつ佐々木さん演じる「中込」の裏の顔を描写するための役を担っています。
また、佐々木さんの表裏のあるオタク「中込社長」もなかなか素晴らしい。危ない、いっちゃっている感じがよく出ており、また冷徹さも伝わってきます。
映画中には、小ネタも結構入っていて面白いのですが、どうも浮いてしまっている気がします(社内の非常ベルがガンダムのホワイトベースのものだったり、社長のTシャツが空手バカ一代の絵柄だったり、博多華丸が「アタックチャンス」したり)。
ただ、ラストシーンはウマいですよ。これにはやられました。これは正直に脱帽です。
なお、個人的なことですが、ロケ地が秋葉原だけではなく、お台場の科学未来館(デジキャピ本社の設定)を使っているので、イマイチ話にのめり込めないところはありました。本社じゃないでしょ!あんなに高層ビルじゃないでしょ!みたいな。また、ドラマ版とは全然違います。それはまた後日。
ちなみに、原作本は文庫化されております。
一人一人では世間では認められにくい若者が、得意分野で新しい道を切り開くさまは見ていて爽快です。だからといって、簡単に成功できるわけでもない。その証拠に、彼らのソフトウェア開発風景は、まさしくプロジェクトX並みの描写です。アキハバラと言っても、ずいぶんとイメージするよりも泥臭く、ネットやサイバーものではないリアルを大切にした話ですね。
原作が書かれたのは、まだライブドア事件などの一連のIT系の化けの皮が剥がれる前なのですが、中込社長が主人公たちに強引に買収を持ちかけるくだりなどは、実際のIT企業の買収姿勢を想起させます。これを見据えていた石田さんの洞察力はさすが。それでも、秋葉原ブームという時代の雰囲気とリンクして読めるのは、今ぐらいだと思いますよ。
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