もう一つのブログ、
「紺洲堂の文化的生活」では、おもに美術やアートについてを扱っているので、どちらに記載しようか迷ったのですが、「本日の読書」としてこちらに書くことにしました。
それが「芸術とスキャンダルの間 戦後美術事件史」(大島一洋)です。戦後すぐに出た「滝川事件」から最近の「和田スーギ盗作事件」まで、戦後の美術事件を扱ったものです。
ネタ元は当時の新聞や雑誌記事が多いとはいえ、戦後の世間を騒がせた美術スキャンダルを俯瞰するには絶好の書です。それに何といっても細野不二彦氏の名作美術漫画「ギャラリーフェイク」でモチーフになった事件が、次から次へと読めることもうれしいですね。
もちろん、ギャラリーフェイクはフィクションなのですが、各話完結のエピソードで語られる事件には、本書で取り上げられているスキャンダルがベースになっているものが多々あります。いわば、リアル・ギャラリーフェイク。その事件の裏に見えるのは漫画と同じく、人間の欲望であり、権威を振りかざす俗物であり、偽物と本物の境界線です。
芸術というのは、いわは究極の付加価値商品でしょう。原価十円以下のデッサンが何十万円になることだってあるわけですから。しかも、それを買ったからと言って芝生が刈れるわけでもなく、肩をほぐしてくれるわけでもなく、腹を満たしてくれるわけでもない。その価格は、いつの世でも「これが欲しい」という人間の欲望が支えているわけです。
時代を越えて人を魅了し続ける美術の魔力、そしてそれにつけこむ贋作やスキャンダル。この本を読みますと、美術展にいって「ええなぁ」と言ってしまう自分に対して「ほんまに、そう思う?贋作かもしれないよ。説明文に騙されているんじゃない?」とささやく、もうひとりの自分を手に入れることができると思います。
ま、手に入れたからと言って、どうというわけでもないですけど。
追加
偽物事件だけではなく、たとえば赤瀬川原平の「模型千円札裁判」やパロディの「白川・アマノ裁判」、バス車体に描かれた絵の著作権、藤田嗣治画伯の著作権侵害問題、といった芸術と法に関わる事件も収録されております。
芸術というと浮世離れした印象を抱きがちですが、いわば世間の代表たる法律との関わりも欠かすことができません。これらの裁判は、図らずも「芸術とは何ぞや」「芸術家の権利とは何ぞや」ということを法廷で証言しなくてはならなかった芸術家たちの苦闘の跡を見ることもできます。
(法学部の学生でしたら、著作権関連の判例として見る機会があったかもしれませんが)
大島 一洋著
講談社 (2006.8)
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