前回の「本日の読書」はフィンランドの教育事情を取り上げた
「競争やめたら学力世界一 フィンランド教育の成功 」を取り上げました。
情報が大量に流れ、すぐに知識も陳腐化していく中で、どう折り合いを付けていくか、いかに情報を使って自分を向上させていくか、自分の人生をどうデザインするか、についてのフィンランドの教育が前回であれば、今回はいかに情報を使って時代を作っていくか、について書かれた本ではないかと思います。
その最前線にいるのが、PR会社ではないでしょうか。「PR会社の時代 メディア活用のプロフェッショナル」(矢島尚)は、そのPR会社の社長さんがPR会社という存在について書かれた本です。
PRってなんぞや?PR会社ってなんぞや?という人が見てみれば、随分と参考になるでしょう。自己PRなどという風に使われてしまうPRですが、本来ならばPublic Relationsの略ですから、自分が社会全体に向かって「俺って、こういう人間だ!」と売り込むことになってしまいそうですが、違いますね。
本書では、PRと広告の違いをこのように紹介しています。
「広告は新聞、雑誌、テレビ、ラジオのスペースや時間を買い取り、その中で自社製品の宣伝をする」
「PRは、新製品の情報や企業における業績など経営情報、人事、海外戦略、M&Aなどをニュースとして、マスコミに取り上げてもらうよう働きかけをすること」
つまり、情報化社会においては、いくら広告をしたとしても、消費者は信用してくれません。では、何ならばより信用してもらえるか。それは、テレビのニュースや雑誌の特集など利害関係のない第三者が紹介するものです。
いかにクライアントがメディアに取り上げてもらうか(しかも好意的に)ということで、PR会社はフィーをもらっているのですね。
案件には、たとえば企業の不祥事から選挙(最近の選挙ではPR会社がかかわって、さまざまなイメージ戦略を用いて選挙戦を有利に運んできたことが有名です)まで、いかにメディアを味方につけるかがあります。
あるいは、メディアに記事を書いてもらうことで世間の関心を喚起し、新しい市場やニーズを沸き起こらせる、といったこともしているそうです(たとえば、ペットフードの市場を拡大させるためにペット人口を増やす、その為にペット飼育可能の集合住宅を増やす、など)。
本書を読んでみますと、「何か仕組まれていて、嫌な感じだなあ」と思う反面、こんな対応一つで世間って変わるものなのだ、と驚きます。メディアリテラシーの教材としても使えるかもしれませんね。
決して、PR会社が世間を操っていると、私は思いませんでした。というより、いかにコミュニケーションが大切なんだ、ということが再認識できました。
情報化社会において、何らかの意図を持たない情報というのは無いわけで、それをどう自分の言いたいことに引き付けられるか、が重要です。
それは、既存のメディアもそうですけど、ネットやブログなどの新しいメディアに対しても言えることでしょう。いかに好意的に受け取ってもらい、世間全体に波及させられるかがPRの鍵となります。ちゃんとしたメッセージをちゃんとしたチャンネルを通じて世間に対して伝えなければならない。それがPRにおけるコミュニケーションであろうと私は思いました。
通常、私たちがテレビや新聞を読んでいますと、不祥事を起こした会社の対応を見て「なぜこんなにまずい対応をしているんだろう」と思ってしまいますが、これらの危機に際してもPR会社は独自のノウハウを持っているようで、会社の対応一つで(消火活動!?)炎上するかしないかも分かれると言ってよいでしょう。
言葉一つで世の中を変えられるとは思いませんが、少なくとも変わる発火点になることは間違いないはずです。それは、情報が氾濫するメディアにおいて、いかに意図した人たちにズドンと撃ち込むことができるか、撃ち込まれた人が行動を変えてくれるか、により価値が出てくるわけです。いわば情報の量より質への転換です。
PRとは一種の営業であり、セールス先はメディアとその先に広がる世間、商品は自己のイメージです。何も、中身がないのにあるように見せる、ということではなく、いかに自分の言いたいことを汲んでもらえるか、が問題なのです。そう考えると、いつ自分の関わる会社が炎上してもおかしくない世の中、対メディア術を身につけることは重要ですね。
PR会社の社長さんなので、
ポジショントークもあると思いますが、情報をいかに流通させるかについては、今後も重要度は増していくでしょう。つまり、流通量は飛躍的に拡大をつづけるでしょうが、個々人の受けられる量というのは増えません。だからこそ、今度は量から質への転換が必要なわけで。
一般市民の対応としては、メディアの情報も鵜呑みにせず、立ち止まって考えることも必要でしょうね(と、ありきたりな結論ですが)。新聞が言っていたから、とかではなく。その点は、ネットで多様な意見を聞いて、最終的には自己判断する必要があるのでしょうが。
矢島 尚著
東洋経済新報社 (2006.7)
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